ビスフェノールA(BPA)を原料とした汎用エポキシ樹脂の製造法については、2019/05/14のブログ「エポキシ樹脂-汎用エポキシ樹脂の製造法」で紹介しました。一段法(one step process: taffy process)は BPAとエピクロロヒドリンを交互共重合させます。二段法(two step process: advanced process)は一段法で作ったビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA)とBPAを交互共重合させます。これら二つの合成法を比較すると、二段法の方が高分子量のエポキシ樹脂が作れるようです。
一段法は縮合して塩酸が出るので、それを水酸化ナトリウムで中和して塩化ナトリウムと水にして分離除去します。二段法は付加反応なので、副生成物はありません。これが生成物の分子量に影響しているのかもしれません。
高分子量エポキシ樹脂(エポキシ重合体)を得ようとして、二官能エポキシ樹脂と二官能フェノール類を交互共重合させる二段法の最初の特許は70年近く前に権利化されました。これがその特許です。
USP 2,615,008 (1952) S. O. Greenlee
License : Devoe & Raynolds Co. Inc. → Shell Development Co.
(二段法による鎖状エポキシ重合体の合成, Mw11,000)
出典:垣内弘編著, “新エポキシ樹脂”, 昭晃堂, p. 21 (1985)
この特許で開示された二段法の技術は、現在でも汎用の固形エポキシ樹脂を製造するために、普通に使われています。非常に息の長い技術といえます。
しかし、この方法では分子量が10,000程度のものまでしか作れません。これ以上の分子量だと軟化点が高くなりすぎて、合成反応が続けられないからです。
その問題を解決するために、溶媒中で二段法を行いました。その特許がこれです。最初の二段法の特許から15年後に権利化されました。
USP 3,306,872 (1967) R. L. Maycock
License : Shell Development Co.
(二段法による直鎖状高分子量エポキシ重合体の合成 Mw227,000)
合成する際に、溶媒としてメチルエチルケトン、エチレングリコールモノメチルエーテルのいずれかを用いています。溶液の固形分濃度は20~60%です。触媒にはアルカリ金属またはベンジルトリメチルアンモニウムの水酸化物またはフェノラートを用いています。また、反応温度は75~150℃です。生成した高分子量エポキシ重合体の平均分子量が40,000以上になるまで加熱を続けています。重量平均分子量は粘度法によって求めており、50,000~1,000,000と測定されたとしています。ですが、粘度法は算出時に用いるパラメータの設定によって、算出値が大きく左右されるますので、必ずしも正確な分子量とはいえません。
実施例には円盤状の試料を作った例がありますが、その厚さは5/32inchですから、約4mmです。フィルムとはいえませんね。フィルムができなければ分子量は100,000未満のはずです。
その後、日本でも溶媒を使う二段法が研究されました。
分子量の測定はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC: Gel Permeation Chromatography)を使っていますが、いずれもフィルム形成に必要と思われる100,000を超えていません。
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