· 

FRP製廃漁船の溶解処理

 10年ほど前になりますが、青森県東津軽郡平内町で廃棄されたFRP製漁船を溶解処理しました。

 

 

 これらの廃漁船の甲板や船体から、30 cm角の板を切り取って、常圧溶解法で処理しました。

 標準条件の触媒としてリン酸三カリウム、溶媒としてベンジルアルコールを使い,常圧下190℃で処理しました。200L溶解槽を使用しました。

 

 

 板の厚さは15 mmほどでしたが、12.5 hで樹脂は全部溶けました。ガラスクロス、ガラス繊維の綿、木材などが回収できました。写真がないのが残念ですが、ステンレス製のボルトやナットがぴかぴかの状態で回収できました。30年以上も前のボルト、ナットには見えませんでした。

 

 最後に2,000 L溶解槽で、100 kgの甲板、船体を溶解処理しました。条件は200 L溶解槽の場合と同じにしました。

 

出典:福田博,邉吾一,末益博志監修,”新版 複合材料・技術総覧”,第7章 第7節,”複合材料のリサイクル”,p.829-837,産業技術サービスセンター (2011)

 

 写真のように、樹脂は全部溶解して、真っ白なガラス繊維が回収できました。これを溶媒や水で洗って、乾燥させるとガラス繊維の綿が回収できます。

 その綿をカード機という機械を使って、不織布にしました。これで回収したガラス繊維が、再びFRPに使えるようになりました。

 

出典:岩崎洋一,齋藤一志,小笠原大二,市川友博,柴田勝司,對馬弘海,”リサイクルFRPの防雪柵への応用”,土木学会 第3回 FRP複合構造・橋梁に関するシンポジウム論文報告集, p.155-160 (2009) 

 

コメントをお書きください

コメント: 3
  • #1

    今泉 久朗 (火曜日, 15 9月 2020 16:46)

    うーん、見事なまでに解重合できますね。巨大な溶解槽があれば、船が丸ごとバラバラにできそうですね。この装置を”溶解槽”と呼ぶのはなぜですか。depolym→解重合槽では?
    また、”溶解槽”がどのような物か知らないので伺いますが、熱可塑性樹脂で適用できるものはありませんか。最近は廃プラ・μプラスチックが地球規模の汚染をしていてどんなプラスチックでもモノマーに戻せると画期的な技術だと思います。経産省の大プロにでもなりそうなテーマ。
    参考:プラスチックを簡単に分解する方法の開発(山口大学大学院医学系研究科2007年)
     https://www.chem-station.com/chemistenews/2007/06/post-119.html

  • #2

    柴田勝司 (水曜日, 16 9月 2020 12:11)

    早速、コメントいただき、ありがとうございます。
     この装置を”溶解槽”と呼ぶのは、樹脂は解重合しただけでは必ずしも溶解しないからです。アルコールを使えば解重合はしますが、解重合した樹脂がそのアルコールに溶解しなければ、ガラス繊維は回収できません。アルコールは解重合の試薬であるとともに、解重合生成物の溶媒でもあります。ガラス繊維を回収するためには、樹脂が溶解してガラス繊維から離れていくことが必要なので、”解重合” よりも”溶解”を重視して、”溶解槽”としました。
     解重合の原理はエステル交換反応ですので、熱可塑性樹脂でもエステルが含まれていれば、溶解分離できます。ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミドも溶解することを確認しています。
     GFRPリサイクル技術に関しましては、2002年から3年間、経産省の補助金をいただきました。
    「平成14年度経済産業省循環型社会構築促進技術実用化開発補助事業
     平成15年度、16年度関東経済産業局地域新規産業創造技術開発補助事業」
    税金を使って開発した技術ですので、一刻も早く、実用化されることを願っています。

  • #3

    今泉久朗 (金曜日, 18 9月 2020 17:22)

    ”溶解槽”の解説をありがとうございます。
    分解してもガラス繊維の分離とはならないのですね。わかりました。
    私は、半導体インゴットの引き上げや、鋳物に係わっていたので”溶解”と聞くと対象物がすべて溶けている状態を想像してしまいました。