CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic:炭素繊維強化プラスチック)のリサイクル技術では、様々な方法が検討されていますが、何らかの方法で炭素繊維(CF)を回収して再利用しようとしています。GFRPの場合のように、CFRPをそのまま粉砕してマテリアルリサイクルする方法はほとんど検討されていません。
CFRPからCFを回収する方法は3種類に大別できます。熱分解法、加溶媒分解法、超臨界流体法です。これらの方法を紹介すると、「それぞれの方法はどのような違いがあるのですか?」というご質問をしばしばいただきます。
そこで、私の主観ではありますが、比較を試みました。
これらの方法の中で、2020年までに実用化されているのは、熱分解法だけです。日本ではカーボンファイバーリサイクル工業(株)が岐阜県で生産しています。また、欧州ではELG Carbon Fibre Ltd.が英国で操業しています。米国ではCarbon Conversions Inc. が実用化しています。
なお、Vartega Inc.という米国の会社がジクロロメタンと超臨界二酸化炭素を使ってCFを回収していますが、現段階では未硬化樹脂のプリプレグだけしか処理していませんので、CFRPからCFを回収する技術には含めません。
熱分解法の実用化が早かったのは、設備が簡便で安いからだと思います。樹脂の熱分解という一工程だけですので、作業性も簡単です。分解の際に生じた廃ガスの処理も、従来技術で対応できるので容易です。
熱分解法の短所としては、回収CFの機械的性質が低下することと、回収CFの品質のばらつきが大きいことがあります。これは、熱分解の際に、CFRPの表面に近いCFは、樹脂が分解除去された後も、中心部のCFが回収されるまで高温にさらされているので、劣化が大きくなります。中心部のCFは樹脂が分解除去された直後に回収されるので、高温にされされる時間が短く、劣化は少なくなります。この傾向はCFRPの厚さが増すほど顕著に表れます。
また、複合材料に使用されるエポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂は500℃前後で分解するので、熱分解法は通常450℃~550℃で行われます。この温度ではCFもやや劣化し、引張強さ並びに引張弾性率が20%~30%程度低下すると言われていますが、CFは元々これらの値が高いので、用途を選べば再利用することは可能だと考えます。
一方、GFは250℃以上の加熱で劣化し、単繊維引張強さは450℃では約1/2、550℃では約1/3になってしまいます。このように劣化したGFは再利用することが困難です。そのため、熱分解法はGFを回収するGFRP並びにプリント配線板のリサイクルには使用できません。
処理温度が比較的低い加溶媒分解法や超臨界流体法では、GFを回収できますので、いろいろな複合材料が処理できます。また、熱分解法にみられるCFの劣化や性質のばらつきはかなり抑えられます。しかしながら、何らかの溶媒を使用するこれらの方法では、洗浄、乾燥、回収溶媒の蒸留などの工程が必要になり、設備が複雑で高価であり、作業も複雑になります。
溶媒に水を使用すれば洗浄工程と蒸留工程は省けますが、水だけCFを回収する技術は今のところありません。
理想的には熱分解法と溶媒を使用するいずれかの方法を併用できるといいと思います。
あまり品質にこだわらない用途には簡便な熱分解法でCFを回収し、品質が重要な場合には溶媒を使用したいずれかの方法で回収します。すでに熱分解法で実用化された企業の技術者の方々も、このことはご存じだと思います。
出典:http://cfri.co.jp/
板津秀人,神吉肇,守富寛: 省エネ型熱分解法による長繊維リサイクル炭素繊維回収技術,廃棄物資源循環学会誌,vol. 24, no. 5, p. 371-378 (2013)
http://www.compositesworld.com/articles/recycled-carbon-fiber-update-closing-the-cfrp-lifecycle-loop
http://www.elgcf.com/
https://carbonconversions.com/
https://www.compositesworld.com/articles/vartega-shows-positive-results-of-recycled-carbon-fiber-testing
WO 2017/171753 Al, Applicant: VARTEGA CARBON FIBER RECYCLING LLC, Inventor: MAXEY, Andrew T.
James Thomason,Peter Jenkins, Liu Yang,“Glass Fibre Strength—A Review with Relation to Composite Recycling”,Fibers, vol.4, no.18, p.1-24 (2016)
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