機器分析のマニュアル化

 合成実験のマニュアル化に続いて、機器分析のマニュアル化です。

 使用する分析機器は研究の内容によって大きくことなります。私の場合はエポキシ樹脂フィルムの合成や、エポキシ樹脂硬化物の解重合を長い間研究していましたので、次のような分析機器を使いました。

 

 赤外分光光度計 (IR: Infrared spectrometer)

 核磁気共鳴分析装置 (NMR: Nuclear magnetic resonance spectrometer)

 高速液体クロマトグラフ (HLC: High performance liquid chromatograp:)

 ゲル浸透クロマトグラフ (GPC: Gel permeation chromatograph)

 示差走査熱量計 (DSC: Differential scanning calorimeter)

 動的粘弾性測定装置 (VEA: Dynamic mechanical analyzer)

 熱機械分析 (TMA: Thermomechanical analyzer)

 熱重量示差熱分析装置 (TG-DTA: Thermogravimetric differential thermal analysis spectrometer)

 ガスクロマトグラフィ質量分析 (GC-Mass: Gas chromatograph/mass spectrometer)

 機械的性質測定装置 (Equipment of mechanical properties)

 ゲル化試験機 (Gelation tester)

 E型粘度計 (E-type viscometer)

 

 汎用の分析機器は共同で使用する場合が多いので、予約をしておかないと使えない場合があります。そして、効率よく分析機器を使うには、同時に2台~4台の機器を使って測定します。そのためには、2か月~3か月の実験計画を予め立てておいて、計画にしたがって分析機器を予約すればいいです。万一、実験が計画通りに進まなかったら、分かった時点で予約をキャンセルして取り直せばいいでしょう。

 

 初めて使う分析機器は、その研究における標準の測定条件を決めるために、少なくとも1か月、長い場合には3か月ぐらい費やしたこともあります。どうやったかというと、最初に測定する対象物を選択します。例えば、DSCによってエポキシ樹脂の組成と硬化性の関係を評価する場合は、使用したいエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤などを、それぞれ数種類から数十種類用意します。これらを色々と組み合わせて、測定する温度範囲、昇温条件、試料量などを変化させます。

 測定のの精度を評価するために、同じ配合で同じ量の試料を同じ条件で、10回以上測定したこともあります。意外なことに、かなり異なる結果が得られることがありました。同じ試料とはいっても、配合して10分以内に測定したものと、次の日に測定したものでは結果が異なるのは当然でしょう。また、試料からの揮発物がセルの内壁に付着していて、それがベースラインを大幅に狂わせたこともありました。毎回作る試料も朝と昼では室温も違いますし、混合するには乳鉢を使うのですが、毎回全く同じに混合できたとは限りません。全く同じ条件で測定することはほぼ不可能ですので、考えられる限り同じ条件で10回ほど測定して、測定誤差を把握します。最大発熱温度の誤差は±2.5℃などというような表現で、結果を残しておきます。この誤差範囲を超える差がついたら、それは有意差と判断できます。

 

 測定条件にもよりますが、1日で5試料~10試料を毎日測定しました。測定中は次の試料の準備をしたり、DSCに関する文献を読んでいました。この時に決めた標準条件は、試料量 10mgで、1回目の測定条件は温度範囲 50℃~250℃、昇温速度 5℃/min、評価項目は、発熱開始温度、最大発熱温度、発熱終了温度、総発熱量です。同じ試料を入れたまま室温まで冷却し、続いて2回目の測定をしました。測定条件は温度範囲 50℃~200℃、昇温速度 10℃/min、評価項目は、ガラス転移温度(Tg)です。

 標準となる測定条件が決まったら、マニュアル化します。試料の採取方法から始めて、データの取り扱い方まで、誰がやっても同じにできるように、丁寧に文書化していきます。

 このような標準測定条件の設定は、研究対象が変わるたびに行いましたが、幸い私の研究対象は5年~10年続いたので、その期間は同じ条件で測定しました。この研究期間において1か月~3か月という期間は、決して長くありません。例えば、研究期間7年で条件設定に2か月かけたとします。その割合は僅か2.3%です。しかも、この研究期間のすべてのデータを同じ測定条件で比較できます。