· 

常圧溶解法の溶解機構

 常圧溶解法では、繊維強化プラスチック(FRP: Fiber Reinforced Plastic)に使用するエポキシ樹脂硬化物や不飽和ポリエステル樹脂硬化物などを溶解して除去するために、触媒としてリン酸三カリウム、溶媒としてベンジルアルコールを用います。この溶解機構について以下詳しく説明します。

 

 いろいろな実験を行って分かったことですが、実はリン酸三カリウムK3PO4もベンジルアルコールPhCH2OH(BZA) も反応剤(化学反応する試薬類)です。ですから、K3PO4は正確には触媒ではありません。BZAは反応剤としても溶媒としても働きます。

 

 K3PO4+PhCH2OH → K2HPO4+PhCH2OK  (Ph:Phenyl基=ベンゼン環)

 

 このことは最初から分かっていた訳ではなく、K3PO4は試験管の底に残っているように見えたので、触媒だと思っていました。

 

 

 この写真は銅張積層板の試験管溶解試験を行っている様子です。左から処理時間 1h, 2h, 3h, 4h, 5h の外観ですが、すべての試験管に白い粉が沈んでいます。これはK3PO4に違いないと最初は思っていました。しかし、実際にはK3PO4とK2HPO4の混合物でした。

 

 溶解機構はPhCH2OKがエポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂の硬化物中に存在するエーテル結合やエステル結合と交換反応することで長鎖を切断していきます。エーテル結合やエステル結合はある条件下でPhCH2Oと置き換わり、Kは切れた結合の末端に移動します。これらの反応をそれぞれエーテル交換反応(Transetherification, Ether exchange reaction)、エステル交換反応(Transesterification, Ester exchange reaction)といいます。このように次々と長鎖が切断されて、分子量が低くなり、BZAに溶解するようになります。

 

 

 エーテル交換反応とエステル交換反応の速度は、正確には測定していませんが、感覚的にはエステル交換反応の方が速く、エーテル交換反応の10倍ほどの速さになると考えています。

 残ったリン酸二カリウムK2HPO4は安定で、これ以上Kイオンを放出しません。280℃までは分解もしません。