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リン酸三カリウム以外の溶解試薬

 カリウムベンジルオキシドPhCH2OKは、水酸化カリウムKOHを用いても作れますが、以下のように脱水します。

 

 KOH+PhCH2OH → H2O+PhCH2OK

 

 この反応は150℃以上でしか進行しないので、水が生成した瞬間に蒸発するため、突沸します。試験管程度の量であればゆっくり温度を上げていって、少しずつ反応させれば何とか突沸しないようにできるですが、大量に合成する際はかなり危険です。

 KOHにはもうひとつ大きな問題があります。KOHの状態で少しでも系中に残っているとガラスを腐食します。ガラス繊維を使ったGFRPを処理した場合、ガラス繊維の引張強さが大きく低下します。

 これはKOHに限らず、アルカリ金属水酸化物に共通する難点です。

 

 他のカリウム塩でもPhCH2OKが作れそうですが、K3PO4のK+は非常に不安定で、大気中では吸湿して安定化しようとします。

 

 K3PO4+H2O → K2HPO4+KOH

 

 ですから、無水のK3PO4は様々なカリウム化合物の中でも、最もK+を放出しやすい化合物だといえます。KOHは150℃以上にしないとPhCH2OKは生成しませんが、K3PO4の場合は室温でも徐々に反応し、約120℃では30分以内に約70%が反応します。100%にならないのは、生成したPhCH2OKがBZAに溶解しきれなくなるからと推定します。

 

 K2HPO4をK3PO4に戻すのは簡単で、KOHを加えて0.1mol/水100gのpHが13.4になるように調整し、300~500℃で加熱脱水すると無水塩が得られます。ちなみに溶解処理後のK3PO4のpHは10~11で、K2HPO4の9.3に近くなります。K3PO4とK2HPO4が混在していると推定できます。KOHを加えて再生したK3PO4は新品とほぼ同等の溶解性を示します。この再生方法は2008年までには確立して、青森県の国土社の3,000L溶解槽でも再生触媒が使用できることを確認しました。

 

 K3PO4よりもエーテル交換反応とエステル交換反応を促進する試薬を探索する数々の実験を行いました。アルカリ金属ではリチウムLi、ナトリウムNaよりもカリウムKの方が交換反応を促進するので、より重いアルカリ金属であるルビジウムRbとセシウムCsの方が促進すると考えました。これらのリン酸塩は市販されていなかったので、すべてのアルカリ金属の塩が手に入る炭酸塩を使って比較しました。

 

 このグラフはCFRP製のゴルフシャフトの断片をベンジルアルコール中190℃で処理した場合の樹脂溶解率です。樹脂が全部溶ければ100%になります。その結果、炭酸カリウムK2CO3と比較して、炭酸ルビジウムRb2CO3で2~3割、炭酸セシウムCs2CO3で2倍ほど速く溶解することが分かりました。

 しかし、これらの塩は採用しませんでした。その理由は価格です。これらの金属はKに比べて非常に高価で数十倍から数百倍になりますし、原子量が大きいため、同じモル数にしようとすると、Cs3PO4の場合、K3PO4の2.5倍ほど必要になります。触媒は回収できるといっても、簡単に回収できるのは8割~9割で、樹脂の分解生成物に取り込まれている金属を回収するためには回収費用も嵩みます。